博士の就活について①:就活体験まとめ
私は2024年5月現在博士後期課程3年として北大に在籍しており、24卒として就職活動を行った。その結果、東証プライム上場企業の大手メーカーから内定をいただくことができた。私が就活経験を通して学んだことをこのサイトに残していくので、これから就職活動を行う博士課程の方の参考になれば幸いだ。今回は私自身が行った就職活動内容について簡単にまとめる。
私の属性について
学歴:北大博士後期課程修了予定(学部・修士ともに北大卒)
専門分野:光化学・ナノ材料・物理化学
業績:DC2採用、筆頭論文1報(化学系のトップジャーナル)、共著1報、受賞数3、プレスリリース1
留学経験:無し
国際学会発表:多数
TOEIC公開テスト:800弱(5年前に受験したときの点数を記入)
企業選びの軸
1,研究職としての配属が確約されている
2,高待遇(給与・福利厚生)
3,社風が自分とマッチしていること
4,社会に大きな影響を与えることができる業界
5,市場規模のさらなる拡大が見込める業界
6,潤沢な研究開発費・自由に研究できる環境であること
就活の時系列とエントリーした企業について
・D1の時期(2021年4月~2022年3月)
4月:就活サイトのアカウント作成(Labbase、テックオファー、アカリク)
5月~:Labbaseからスカウトを頂いた企業数社とカジュアル面談
・D2の時期(2022年4月~2023年3月)
4月~:Labbaseからスカウトを頂いた企業数社とカジュアル面談
7月~:大学主催の企業との交流会に参加
11月~:企業研究(オープンワーク、オープンマネーなど)
11月~:企業説明会に参加(就活サイト経由)
12月~:数社の本選考にエントリー開始(エントリーシート作成・適性検査等)
1月~3月:本選考受験
3月:内々定・就活終了
カジュアル面談・説明会参加数:20社程度
エントリーした企業の業界:企業研究所・半導体関連メーカー・医療機器メーカー
総エントリー数:9社(内定1社、不採用2社、面接途中辞退6社)すべて自由応募
就活を行った感想
予想していたよりもあっさりと内定をもらうことができ、拍子抜けしてしまった。旧帝理系の博士卒で、ある程度の研究実績を出していれば、希望する企業に就職するのは難しくないと思った。特にコンサルやデータサイエンス関連の企業からのオファーを頂くことが多く、その方面で博士卒が求められていると感じたが、一方で修士卒と比べると選べる企業・職種は限られるとも思った。また、博士卒でも大学名は重視されていると感じた。
次回はより具体的な就職活動内容や、面接などの対策方法についてまとめる予定。
研究しない大学院生は悪か?
ツイッターなどのSNSを見ていると研究熱心な大学院生が、同じ研究室の全然研究をしない学生を批判したり、見下すような投稿が散見される。同じ研究熱心な大学院生として、大学院に進学したくせに研究しない学生に対してイライラする気持ちも理解できるが、彼らに怒りをぶつけるのはお門違いではないだろうか。
そもそも、なぜ彼らは研究が好きでもないのに大学院に進学しているのか?
それは就活において企業が学生の研究能力を軽視していながら修士卒を求めているからであり、かつ大学側が研究が好きではない学生を大量に入学させているからではないのか?
つまり、研究者であるならば、研究しない学生個人を感情的に批判するのではなく、そんな学生が院進してしまうような社会構造やメカニズムに着目し、批判するべきではないのかということだ。
個人の思想や生き方を否定し矯正するのは容易ではなく、ときには非人道的でさえある。お互いが幸せになるようなシステムを考えていくことがよりよい社会の構築に必要なことなのではないだろうか。
はじめての研究:先行研究の勉強の仕方
今回は新しい分野の研究を始める際の先行研究(論文)の調べ方、勉強の仕方について紹介する。
はじめに、論文には主に以下の種類が存在する。
①原著論文(Article, Full Paper)
②レター(Letter, Communication)
③会議録(proceedings)
④学位論文(thesis)
⑤総説(Review)
色々種類があって混乱すると思うが、まずは④の学位論文(博士)を読みましょう。博士課程の学位論文は一般公開されていて、ネットで無料で読める。特に日本人が書いた博論は日本語で書いてあることが多く、分野の基礎的な部分や背景ががわかりやすく書いてあるため、英語の論文で勉強するより効率がよい。
次に⑤の総説を読みましょう。総説とは特定の研究分野に関する先行研究が体系的にまとめられた論文であり、その分野の概要や動向を知ることができる。総説の中でもビギナー向けのチュートリアル的な論文があり、特におすすめ。web of science のEditorial Materialsというドキュメントタイプの項目をチェックすると一括で検索できる。
次に総説で引用されている原著論文やレターの論文のなかで興味を引いたものを調べて読みましょう。原著論文やレターでは、より具体的な実験方法や、研究の流れを知ることができる。
論文の検索は上述したweb of scienceというサイトが便利。論文の種類ごとに調べることができる。
あと言うまでもないが、必要に応じて教科書も読むのももちろん大事。
過去の記事はこちら
データはあるけど論文が出せない
現在3つほど研究テーマを走らせており、そのうちの1つは論文1っ本分の実験結果が集まった。しかし、論文が書けない。理由は論文のストーリーがうまく書けないというのと、よりハイインパクトなジャーナルに出すためにはさらなる実験結果が必要という2点である。現在さらなる実験結果を得ようと実験を繰り返しているのだが、なかなかうまくいかない。今のままのデータで論文を出すのが無難ではあるが、個人的にはハイインパクトなジャーナルに出したいという気持ちも捨てきれない。ということで自分で期限を設定してそれまでに実験結果が得られなければ、このままで論文を投稿することにした。
しかしいままでは、データはあるけど論文が出せないと言う人の言わんとすることが理解できなかったが、今回の経験を踏まえやっと理解することができた。この状況をたとえるなら、株式売買で損切りするタイミングを考えるときだろうか。なんにせよ精神衛生的に良い状況とは言えないのであまり深く考えないことにする。
北大博士課程の授業料がタダになる(なった)件について
北大が博士課程の進学率を向上させるため、博士課程の授業料を無料にする改革を推進している。
実は既にアンビシャスフェローシップ採用者は今年度から授業料が全額免除になっている。(DXフェローシップおよび学振採択者は免除の対象外。)加えて過去記事でも書いたが、フェローシップ採択者はJASSO奨学金との併用ができ、半額以上の返還免除になると学振よりもアンビシャスフェローシップのほうが高待遇になるため、ますます学振の優先度が低下している。
ただアンビシャスフェローシップ採択者は毎年必ず学振に申請する義務があり、学振に採用された場合アンビシャスフェローシップを辞退しなければならない。そのため、できの悪い申請書を作成し、わざと学振に落ちるという手も場合によっては有効である。(おすすめはしない)
研究がうまくいかなくなったときの対応策
今回は私が研究で詰まったときに行っている対応策について紹介する。
1.先行研究を勉強し直す。
研究テーマについての理解度が低いと当然研究はうまくいかない。また、ある程度先行研究について勉強していても、時間をおいて同じ論文を読み返すと以前勉強したときには意識に止めていなかったポイントが自分の研究テーマにおいて重要な知識に変貌することがある。
先行研究は何度も読み直しましょう。
2.実験データを分析し直す。
実験結果の分析が甘いと考察も甘くなる。考察を深めるためには実験結果とにらめっこする時間が必要。
3.実験手法、実験装置の原理を勉強する。
実験手法、実験装置の原理の理解を深めれば、手法の誤りに気付くことがあるし改良可能なポイントも見つかる。また、どのパラメータを動かすことが可能なのかを把握することで、実験の自由度が広がり研究がうまくいくことがある。
4.教科書を読んで勉強する。
教科書レベルの基礎的なことが意外と身についていなかったりするし、それが原因で研究がうまくいかないこともよくある。勉強しましょう。
5.人に相談する。
ある程度準備した上で相談しないとお互いに不毛な時間になる。
6.創意工夫でどうにかならないか考える。
割と創意工夫でなんとかなる場合がある。経験上1~2週間ぐらい悩むと解決策を思いつくことが多かった。知的体力が勝負である。
私の経験上、研究がうまくいかない主な原因は知識、経験、理解力、工夫の不足であることが多かった(当たり前)。そもそも研究テーマの設定自体に問題があることもあるので、そのときはその研究テーマがうまくいかない証拠を集め指導教員に説明し、研究テーマを変更してしまうのも手である。
はじめての研究:卒業研究の進め方②
前回に引き続き、卒業研究の進め方を紹介する。
step5. 指導教員とのディスカッションをもとに研究計画を立てる。
step6. 実験を行う前に、先行研究・研究目標をもとに実験条件の精査を行う。
この段階が実は非常に重要。実験条件に問題があると実験結果の考察がやりにくくなったり、最悪の場合、実験をすべてやり直すハメになる。指導教員、先輩学生とよく相談すること。
step7. 研究計画通りに実験を行い、実験結果を指導教員に報告しフィードバックをもらう。
実験結果を見せる前に、自分なりの考察をしておく必要がある。
step8. フィードバックをもとに実験条件を改善し、再度実験を行う。
step9. step7, 8を繰り返し、卒論に必要な実験データを集める。
step10. 実験データをもとに卒論を書き始める。
実験の大まかな流れな以上である。卒論の書き方については別記事で紹介する。